プリン

ゆっくりチルノのMO実況のプリンを食べている人。

青トロンを選ぶということ

 

はじめに

今回の話題は青トロン。

もちろん青トロンって何よ?って人もいると思う。

ここからは、とあるカードゲームのとあるルール上のとあるデッキ、それを紹介する内容になっている。なので、すごーーーくせまい界隈の、そのまた隅っこのお話になる。なので申し訳ないけれども、MTG・モダンも知らないという人は、あまり興味のある内容にはならないはずだ。

 

あくまでこの記事は、青トロンに興味がある人、モダンのニッチな世界を味見してみたい人へ向けて書いた。好きが高じてかなりの長文になってしまったので、大まかに2つに分けてある。

目次の「前書き」〜「青トロンの弱点と魅力」にかけての前半が概要、それ以降の「トロンといえば」〜「青トロンのこれから」は、前半で取り上げた内容を、より詳しく掘り下げたものになっている。なので、

  • サクッと読みたい人は、「青トロンの概観」〜「青トロンの弱点と魅力」まで
  • モダンのデッキ選択に困っていて時間がある人は、「前書き」〜「青トロンの弱点と魅力」まで
  • めちゃくちゃ暇だし付き合ってやるよって人は、最後まで

読むと効率的だと思われる。では、お付き合いいただこう。

 

前置き

以前、とある熱心なファンの方が書かれた青トロンハウツー記事を見かけた。内容はデッキのカード紹介とプレイングだ。それを読みながら、私も何かできないかなぁ~と漠然と思ったのがこの記事の発端だ。

しかし、残念ながら私は全然強くない。

今のところ、MOのモダンリーグで3-2ばかり繰り返している、うだつが上がらない一般プレイヤーだ。

しかし、ただのマジックが好きなだけの一般プレイヤーでも、いろいろなデッキを使ってみては馴染まず手放す、そんな試行錯誤を繰り返した。

それくらいモダンには魅力を持ったデッキが沢山ある。きっと自分と同じような経験をしてる人は多いだろう。

 

モダンのデッキ選択は大変

今、2022年のモダン環境は、新セットからの影響が強く、頻繁にメタゲームの情勢が変わる。おまけに情報もすぐに出回るため、支配的なデッキが目に見えて分かるようになった。なのでデッキには旬があって、時期が来たら乗り換えるような時代になった。

勝ちに拘るならば、どんどん流行に乗る or メタを先読みしたデッキ選択をする、というフットワークの軽い乗り換えは理にかなっている。

他方で、最近のモダンは値段がそれなりに張るフォーマットになりつつある。

全体的に底値が押し上げられ、デッキによっては気軽な乗り換えが難しい金額帯のものも出てきた。高いものでは格安のレガシーデッキを抜いて、ミドルクラスの価格帯と並ぶものまである。頻繁に新しいデッキを組むのも財布にはダメージだ。

それに付け加えるなら、モダンはローテーションのないフォーマットだ。せっかくモダンをやるなら、本当に自分が気に入ったデッキを1つ見つけて長く使っていきたい、という気持ちもあるだろう。

 

自分の好みのデッキを見つける

メタゲームの中で青トロンは、贔屓目に見てもティア2以下に属する立ち位置だろう。禁止と縁遠いところのデッキは、明確な利点が1つある。それは長く使えるということだ。

これは皮肉なんかではなく、特定のデッキを長く使うことは、そのままデッキへの理解度を深めることへ直結する。もちろんメタの理解や対策も必須だ。しかし、同時に自分のデッキを理解してポテンシャルを引き出すことも勝つためには重要な要素だろう。

私は好きなデッキと共に勝ちたい。

だから、さして強くもない私が出来ることは、好きなデッキを握って勝ちたいという人へ向けた、青トロンを選ぶことで得られる体験を提案することだ。

青トロンは、すごく特殊なデッキで魅力に溢れている。間違いなく自分にとってはプレイしていて一番楽しいデッキだ。それが具体的にどんな性質のもので、どんな人に向いているのか、選択肢の1つとして紹介したい。

 

青トロンの概観

(青トロンを知ってる方は次のトピックまで飛ばしてください。)

御存じの人も多いであろう、強力な3種土地《ウルザの鉱山》、《ウルザの魔力炉》、《ウルザの塔》から生み出される莫大なマナ。

トロンとは、それらを使って強力なカードを叩きつけて勝利するデッキの総称。

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この3枚が揃うと、合計7マナが出る。控えめに言っても、算数ができていない。

基本的な青トロンのゲームメイクは、序盤を打ち消しやバウンスで相手のテンポを取りつつ、サーチや占術、ドローで土地を探す。

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これらがその序盤を組み立てるためのオーソドックスなメンバー。お馴染みのヤツらだ。

そして、この狂ったマナ基盤が完成したら一転攻勢をかける。最速の完成イメージは、土地が(青マナ土地1)+(ウルザランド3種)の計8マナだ。そこから隙を作らず、相手に適した回答をキャストして盤面を掌握する。

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これらが1枚でちゃぶ台返しをする一般的なカードたち。1度使ったら忘れられない異常な効果ばかり。使ったらヤミツキになるし、使われたらトラウマになる。

本領を発揮するのは、基本的に4ターンから。なので、それまで相手への対処をするコントロール的な立ち回りが求められる。それと同時に、必要なカードを揃えるコンボ的な動きも求められる。青トロンは、コントロールとコンボの両面を備えた特徴的なデッキだ。

よく言えば丸い、悪く言うなら中途半端とも言える不思議なアーキタイプになっている。

 

青トロンの利点

手札によっては、相手の動きを無視して序盤から土地を揃えることだけに注力する動きもいいだろう。初手が芳しくなければ、序盤は受けに徹し切ってじっと反撃の機会をうかがうのもアリだ。

コンボほど初手への要求値が高くなく、コントロールほど相手のしたい動きをイメージして、受けに回る必要がない。

  • ウルザランドへの依存度が低い

他のトロンデッキと比べてウルザランドへの依存度が低い。極端な言い方をすれば、青マナの確保と、土地さえ伸びてしまえば戦うことは可能だ。

さすがにウルザランドを諦める選択は相当な覚悟をしなければならないが、ウルザランドのどれか1枚を《外科的摘出》されたら即投了、なんてことにはならない点は確かな利点と言って良いだろう。

↓誰もが相手に使われたくないが自分は使いたい1枚

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  • サイドボード後に完璧な不利になることがない

ウルザランドへの依存度の低さに補足する内容だが、コントロールの性格を持ったデッキのため、サイドボード後のマナ基盤などへの致命的な妨害に対して対処が可能だ。

付け加えて、デッキ構築ではフィニッシャーの自由度が高く、基本4積せず散らしてある。なので、メインで見せなかったカードを使って、サイド後に意表を突くことや、サイドミスを誘うこともある。

 

マナに困りたくない、コントロールのようなじっくりしたゲームを楽しみたい、でもたまにはコンボのようなパワームーブもしたい、極端な不利は出来るだけ避けたい。無茶苦茶なワガママなのは承知だが、優柔不断な自分には、ある意味ピッタリのデッキだった。

 

青トロンの弱点と魅力

これは前述のサイド後のゲームについて触れた内容と少し被る。私が思う、青トロンの1番の弱点であり、自分が青トロンを使い続ける強い魅力。それはピン挿しのカードが多く、理想の動きをなぞることが難しい点だ。

カードゲーム全般で言えることだが、「自分のしたい動きをする」のが、勝ちへの最短ルートだ。なので、「どんな時でも、自分のしたい動きができる」ことは、デッキ自体の強さを推し測るよい基準だと私は考えている。それは簡潔に言い換えるなら、いつ・いかなる状況でも理想の動きを再現できる「再現性」だ。

再現性が高いデッキリストは、上限の4積みカードが大半を占める。次何が引けるか分からないデッキトップから、欲しいカードを引くためには当然の構成だろう。

しかし、青トロンは違う。

ひとつ前のトピックので触れた、切り札たちはピン挿しのため、1ゲームの中で最初に手札に来てくれるフィニッシャーがほぼ毎回違う。ようするに、再現性とは真逆の構築になっているのが特徴なのだ。ピン挿しカードが多いせいで、当然初手もドローも不安定。どの青トロンのリストを見ても安定して4枚入っているカードは、基本土地を除けばウルザランド3種と《探検の地図》くらいだろうか。

次点で《撤廃》、《卑下》、《差し戻し》、《知識の渇望》が4積み候補に上がるが、これはプレイヤーの好みによって枚数が調整されている。

逆になぜ4枚積まれるカードがこうも少ないのか。

恐らくその理由は、各カードのできる仕事が決まっていて、何でもできる万能カードというものが無いからだと思う。〇〇に辿り着けばどうにかなる、と思えるような主役級のカードがいない。代わりに一長一短のある脇役カードたちが、役割分担をして組織のように動き戦略を達成する。彼らはまるで群像劇のように、毎回再現性の低いドラマティックなゲームを展開してくれる。クサい言い回しをしてしまったけど、私は青トロンの使いにくさも含めた再現性の低さに堪らなく魅力を感じる。

 

大まかに言いたいことは言ってしまった。

ここからは余談になるが、具体的に青トロンはどんなゲームをするのか触れていきたい。長い余談になると思うので、最後までお付き合いして下さった奇特な読者には先に感謝を伝えておきたい。

 

トロンといえば

では、まずデッキの名前を冠する程重要なマナ基盤のトロンについてまず触れたい。

トロンと言えば、まず真っ先に出てくるのは「緑トロン」だろう。このデッキは完成度が高く、悪名も轟いている。そんな緑トロンと兄弟のような名前をしている青トロンは、前提となるトロン土地3種の土地基盤を共有しながらも、方針が全く違う。

緑トロンはメジャーなデッキなので、よい比較対象として違いを見てみたい。

 

緑トロンにとって7マナあると言うのはどういうことか。

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なんでも1つ追放してしまう忠誠度オバケの《解放された者、カーン》、破壊不能を貫通するリセット呪文《全ては塵》がある。最速3ターン目に飛んでくる、これらの7マナ全てを使い切った緑トロン最大火力は、もはやトラウマでしかない。

緑トロンは、緑の特徴である土地サーチとランプ効果を活かして最速でウルザランドを揃えることに特化した構築がなされている。一度揃ってしまえば、メインで最大火力を毎ターン叩きつけ続ける、緑らしさとトロンらしさの交差点だ。

 

トロンを青くすること

対する青トロンはどうだろうか?

残念ながら無色7マナ揃ったところで、盤面をひっくり返すような火力はない。もちろん各々の構築にもよるので、一応、無色7マナを自ターンで使い切る比較的メジャーなメインの動きを上げる。

《大いなる創造者、カーン》から、忠誠度能力−2を使ってサイドボードの《罠の橋》をキャスト。

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《ワームとぐろエンジン》を唱えて1マナ余り。あと最近は見かけなくなってしまったが、《マイアの戦闘球》なんかもあったりする。

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例を挙げてはみたが、青トロンの7マナ最大火力《大いなる創造者、カーン》+《罠の橋》や、《ワームとぐろエンジン》余り1マナなどの動きは、緑トロンにも内蔵されている。何なら緑トロンの方が上手く使えている。

つまり、トロンを青くするということは、青らしく相手ターンで膨大なマナを使ってくるトロンというだけでなく、無色7マナが揃っても出来ることが大して無いトロンということだ。

 

マナ基盤の完成後

だからといって青トロンが緑トロンの完全な下位互換ということは無い。(ウルザランド3種)+(青1マナ)が揃うことで得られる自由度は、緑トロンに(ウルザランド3種)+(緑1マナ)が揃った状態とは比較にならない。その例を一つ挙げてみたい。

 

順調に4ターン目で(ウルザランド3種)+(青1マナ)が揃ったとする。

そしたら《殴打頭蓋》を唱え、(無色2)+(青1マナ)を立てた状態で相手にターンを返すことができる。

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それはつまり、相手ターンで《卑下》、《撤廃》の両カードを(X)=2で構えることができることを意味する。

(つまりお互い順調に土地をプレイした状況なら、《卑下》は、先手なら3マナ以上の呪文を、後手なら4マナ以上の呪文を打ち消すことができる。)

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もちろん、その選択肢に加えて《知識の渇望》を追加で唱えることもできるし、状況次第で《殴打頭蓋》の3マナ能力を起動させることもできる。

(ウルザランド3種)+(青1マナ)が揃った状態で、《殴打頭蓋》を選ぶことは、何か3マナを構えながら、「警戒、絆魂、(3):バウンスの4/4クリーチャー」を唱えられてるように相手に見えることになる。そりゃ当然そうだろう、とマジック経験者なら誰もが思うところだろうけど、これが緑トロンとは決定的に異なる点だ。

相手へフルタップでターンを渡さず、プレッシャーを維持しながら自分の動きをする。

 

他には、手札に《サイクロンの裂け目》や《忘却石》があれば、本来であれば覆せないような盤面でも好きなタイミングでリセットすることができる。緊急性が高ければ《精霊龍、ウギン》をメインで叩きつける選択肢もある。

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一般的なリストを参考に分かりやすい例を挙げたが、これらは選択肢の一部に過ぎない。マナ基盤の完成形を、緑トロンよりも1ターン遅く設定することで得られる選択肢の最大化が、トロンを青くすることの醍醐味の1つだ。

再現性の話の部分で触れたが、大抵のコンボやコントロールの場合、「自分のしたい動き」は、そのまま明確なゴールプランになる。青トロンにとっての「自分のしたい動き」は、ゴールプランを幅広く持つことにある。

 

まとめると、

  • マナ基盤の完成形は(ウルザランド3種)ではなく、(ウルザランド3種)+(青1マナ)。
  • そのためマナ基盤の完成は、最速でも4ターン目。
  • 最低でも4ターンまではテンポをとる必要がある。
  • マナ基盤の完成以降から選択肢が飛躍的に増えるが、必ず踏まなければいけないフィニッシュ手順は無いので、あとは自分の好みに合わせて動く事ができる。

 

土地への依存

ひとつ前のトピックで、ウルザランドだけでなく青マナも重要なことに触れた。

一般的なリストを覗くと、序盤のゲームメイクを支える1〜3マナ域のカードで、青でないカードの方が少ない。青トロンは、ウルザランドへの依存度が比較的低い利点があると述べたが、それは青マナの方がウルザランドよりもデッキ全体の回転のためには重要、ということでもある。

《探検の地図》は、ウルザランドをサーチしてくるために使われる印象が強い。しかし、実際プレイしてみると、《島》など青マナを生み出す土地をサーチすることも多い。確かに私自身のマリガン基準を思い返すと、ウルザランドが無くともキープすることはあるが、青マナが無い手札をキープすることは少ない。よく青トロンが「重コントロール」と呼ばれる理由は、恐らくここにあるだろう。早期にウルザランドを揃えてマナ加速した先の選択肢よりも、青マナを使ってデッキ全体の回転率を上げた方が、圧倒的に選択肢が増える。

緑トロンは、土地以外に緑マナを出す手段を豊富に持った構築をしているので、完全にウルザランドの方が重要だと言い切れる。しかし青トロンは、似た名前をしながらも青マナを出す手段を土地以外にあまり持たないので、ウルザランドと青マナ土地のどちらが重要かという比較は難しい。

しかしながら、ウルザランドと青マナ土地のどちらも確実に用意することのできる《探検の地図》には、第3の土地として想像以上に依存していることが分かる。

 

青トロンはコントロールなのか?

初手〜序盤にかけた土地の重要度比較は、プレイングの核の1つなので記事の趣旨を逸するため触れない。しかしながら、青1マナの重要度がウルザランドに匹敵する、場合によっては勝ることまであるのは、コントロール的な性質を土台としてアーキタイプ自体が成り立っていることの証拠だろう。

しかし、私は青トロンを “コンボとコントロールの中間のデッキ” だと最初から説明してきた。その理由は、モダンのゲームスピードが全体的に上がり、マストカウンターが増えた現環境では、4〜5ターン目までパーミッションを遂行した先で、マナ基盤を完成させ、何かしらビッグアクションを取らないことには厳しいという現状がある。

それに加えて、デッキのカラーが青単色という性質上、必ずどうしても対処できないカードが出てくる。それはコントロールを代表する「アゾリウスコントロール」と比較すると一目瞭然だろう。「アゾリウスコントロール」は、青が得意とする打ち消しなどの “出るまえ対処” に、白が得意とする単体除去と全体除去の “出たあと対処” の2段構えで、相手のあらゆる攻撃をはたき落とす。相手が繰り出すどんなアクションも漏らさず捻り潰す、まさしく最強の盾だ。

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↑インスタントタイミングを制限する“出るまえ対処” 、バウンス&ドローの “出たあと対処” のどちらもこなすハゲ。こう説明すると髪を代償にして得た力は圧倒的だ。

しかし青のカラーだけでは、盤面に着地してしまったカードへの対処は、バウンスくらいしか持たない。バウンスして、ゲームスピードを遅れさせた先に、相手が嫌がる何かしらのアクションを用意しない限り、コントロールらしいゲームの完遂は難しいだろう。そうしたところにコントロールとして不完全な部分を見ることができる。

 

青トロンはコンボなのか?

コントロールの理想は “何をしても無駄” な状況を作ること。実際に何もさせないわけではない。しかし、青トロンには、文字通り本当に “何もさせない” ことができる。《精神隷属器》+《アカデミーの廃墟》だ。

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6マナ《精神隷属器》をキャスト→4マナで起動→2マナで《アカデミーの廃墟》を起動し、墓地からデッキトップに《精神隷属器》を回収する無限ループ。

《アカデミーの廃墟》を加えて数えたら13マナで完成する、この無茶苦茶なコンボは、相手から投了以外のあらゆる自由を奪い続ける。青であること、尚且つ膨大なマナを生み出せることができる、青トロンにしかできない世界の終わりのようなコンボだ。

つまり何が言いたいのかというと、 “何をしても無駄” な状況を演出するのと、文字通り “何もさせない” ことの間には大きな隔たりがあると言うことだ。相手が “何をしても無駄” なのはコントロールで、相手に “何もさせない” のはコンボなのだ。

 

どっちでもあるし、どっちでもない

話を戻すと、私があえて青トロンは “コンボとコントロールの中間のデッキ” ということを何度かアピールしてきたのは、序盤のパーミッションプランの先に、上述のコンボを含めた、複数のフィニッシャーを突然叩きつけることで勝つデッキだからだ。

仮に、青トロンが《精神隷属器》と《アカデミーの廃墟》を4枚ずつ積んで、デッキ構築段階からパーミッションプランを明確にしているデッキなら、私はコントロールだと言い切っていたと思う。それは逆に「隷属器コンボ」じゃないのか?と思うかもしれない。だが、残念ながらトロンであっても、ウルザランド3種が揃うことで出る7マナ、そのほぼ倍を用意するのには、あまりに時間がかかり過ぎる。順調にウルザランドをセットできていても、単純な14マナへ到達するまでに最速6ターンかかる。マナ数だけならまだ良いが、そこに《アカデミーの廃墟》と、起動のための青マナが出せる準備を整えなければならず、コンボを実現するにはハードルが高すぎる。コンボの条件を達成するまで、パーミッションプランを実行している時間がゲームの大半を占めるため、もし仮にそんなデッキと出会ったなら、やはり私はコントロールと呼ぶだろう。

共にコントロールやコンボは、既に構築の段階でスタートからゴールまでの明確なプランがあるからこそ、純粋にプレイングだけに没頭することができる。(考えるべき問題が限定されることで、思考がクリアになることは、ティア1のコンボ、コントロールデッキの副次的な強みとして捉えられるだろう。)

だからこそ、デッキのフィニッシュ手段の不安定さに、コンボかコントロールどちらにも徹し切らない中途半端さが窺える。もし、どっちなのと訊ねられたのなら、どっちでもあるし、どっちでもないと答える。

 

中途半端ではなく兼任効果

2022年現在、モダンの打ち消し界隈を少し俯瞰すると、2021年にモダンホライゾン2で、マジック最初のカウンターである《対抗呪文》が追加された。これは個人的に衝撃だった。

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↑《対抗呪文》は、いろんなイラストがあるので、どれを使おうか悩む。

これまでモダンで使われてきた打ち消しで最も有名なものといえば、 “条件付きカウンター” と呼ばれる《マナ漏出》だろう。

“条件付き打ち消し” とは、マナリークのように「〜しないかぎり、それを打ち消す。」だとか、「クリーチャー呪文1つを対象とし、それを打ち消す。」といった効果のカードを指す。青トロンの顔とも呼べる《卑下》も、“条件付きカウンター” の仲間だ。

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↑私はひと昔前の打ち消しイラストがすごく好きだ。《卑下》ほんとつよそう。

《対抗呪文》がモダンに参入したことで、青トロンの中での《卑下》の役割は、より明瞭になった。単純な打ち消し性能だけなら、タイミング次第では対象を打ち消すことができない《対抗呪文》の下位互換だが、代わりに《対抗呪文》ではできない占術2が付いてくる。まず滅多にやらないけど、最悪の場合(X)=0で唱えて占術2だけする、なんて選択肢もある。言ってしまえば、器用貧乏なカードの《卑下》だが、1枚で2度美味しい兼任効果でもある。

 

兼任できること自体に目線を向ける

《撤廃》に関してもそうだ。バウンスの中では対象に取れるパーマネントの範囲が比較的広いカードではあるが、対象にとるパーマネントのマナコストを参照するスペルなので、当然マナコストが重いパーマネントほど対象にとるハードルが上がる。

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何を当たり前のことを言っているのかと思うかもしれないが、《濁浪の執政》に代表されるような、探査を前提としたカードや、リアニメイトで踏み倒される《残虐の執政官》に対して不利だ。(X)=7コスト以上である状況を考えてもらうと分かりやすい。マナ基盤の完成を(ウルザランド3種)+(青1マナ)と言ったが、完成後の1+7マナを任意に分割し、自ターンと相手ターンで使い分けることが、青トロンの基本戦略だった。《撤廃》を(X)=7とするなら、マナ基盤が完成していれば一応対処こそできるが、両ターン通して1つのアクションしかとることができない。この時点で青トロンは強みをかなり削がれていると言っていいだろう。

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↑7マナなのに2マナで出てくる8/8のクリーチャー濁浪、ただそれだけで強い。残虐は言わずもがな。

こうした相手側のフィニッシャーを前にしたとき、互いのカード1枚のコストパフォーマンスを比較すると、少量のマナでキャストされるカード相手に大量のマナを注ぎ込んで《撤廃》でバウンスをすることは、アドバンテージ差の面でもあまり良い選択とは言えない。この状態だと、やはり“条件付きバウンス”の《撤廃》よりも、キャントリップが無い代わりに、唱えることに制限がつかないバウンスに特化したカードを採用した方が無難だろうとも考えられる。

ただし、そうした重量級カードを対象にとるような段階のゲームは、既に《撤廃》の構築的な役目を終えてると状態と私は捉えている。(X)=7以上で唱える選択をするかどうか考える状況は、既にマナ基盤の準備を終えた上で、盤面の脅威を一時的に退けると共に付いてくる追加ドローに、この状況を打開する何かしらのカードを期待する段階だろう。

要は、やはり《撤廃》の構築的な採用価値が、マナ基盤の完成前に使えるマナが計2〜4マナ程度の状況で、相手の展開スピードを落とさせながら、キャントリップによるリソース補充及び、マナ基盤を完成させるパーツを期待することにある、ということだ。ゲームの序盤の役割分担で、《撤廃》のバウンス効果と、キャントリップ効果の重要度を比較するのが難しいのではなく、どちらの効果も必要なことがまず前提なのだ。そして、それら2つの効果を、個別のカードに託すスロット的余裕や必要が無いからこそ、どちらも1枚に収まっていた方がより好ましいため、《撤廃》が採用されているのだ。

 

構築段階とゲーム中との間で起こるカード評価のズレ

同じバウンスを考える上で、《サイクロンの裂け目》は非常に明快な比較対象になる。

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軽いマナコストで、序盤のテンポ管理に使うことが可能。加えて、マナ基盤が完成した後では、相手の盤面だけを一時的にリセットする、破格の超過コスト効果を持つ。青トロンの弱い序盤と、得意な終盤の双方で、仕事ができる《サイクロンの裂け目》は、これほど相性の良いカードは無いのではないかと思えるほどのバウンスカードだ。なのにも関わらず《サイクロンの裂け目》は、ほとんど1枚以上投入されない。それはなぜか。

これは通常・超過キャストのどちらでも優秀な、選択肢の最大化というコンセプトと合致したカードだ。だが実のところ、超過モードを選択できるかどうかは、自分のマナ基盤の状態に依存している。どれだけ超過コストで唱えたくとも、マナが用意できなければ、逆立ちしたとろで唱えられない。一見自由なようで、いざという時の懸念が残るのは、構築段階でカードから見える “汎用さ” と、実際のゲームの中で生じる “専用さ” という評価のズレを端的に表している。

序盤・終盤どちらでも腐らないことを、《卑下》や《撤廃》から見出した、効果を兼任することと同様に扱うことはできない。それは仮に《瞬唱の魔道士》で、墓地から《サイクロンの裂け目》をフラッシュバックしても、超過コストは選択できないことからも明らかだと言える。

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↑フラッシュバック効果自体が、“代替コスト”なので、同じく“代替コスト”である超過と一緒に唱えることはできない。

もし《サイクロンの裂け目》が選択肢を増やしていると言うなら、それは構築内での序盤の妨害ポストと、フィニッシャーポストを行き来できる可能性のことを指すのだろう。だからこそ、4枚採用されることはない。

《卑下》や《撤廃》を積極的に評価する効果の兼任とは、デッキに入っていないはずの、低コストドローカードと同等のアドバンテージを生み出すことなのだ。それは端的に言うなら、《卑下》と《撤廃》を唱えたとき、《定業》や《血清の幻視》で得られるものと同じだけの効果を得ていることだ。

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《サイクロンの裂け目》と、同じくバウンス効果の《撤廃》を比較すると、《撤廃》を主に使うであろうマナ基盤の準備段階では、《サイクロンの裂け目》を超過で唱えるコストは用意できず、次のアクションの幅を広げられる1ドローも付いた、《撤廃》の方が青トロンの都合上優先される。

 

青トロンのこれから

一般的に青トロンに採用されている、序盤のゲームメイクを担うカードを取り上げた。

私が喩えた「選択肢の最大化」という青トロンのコンセプトは、構築段階からゲームの段階まで一貫していた。その曖昧で不定形な状態を、デッキ全体で積極的に保つ姿勢は、他のデッキではあまり見かけないものだろう。だからこそ、採用されているカードの多くは、青トロン専用のシンボリックなカードとして受け取られがちではあるが、それらのカードも必ず採用されるというわけではない。マジックにおいて、強力な呪文のデザインに共通するのは、マナコストが重いことか、或いは色拘束が厳しいことだ。どちらの条件でも、唱えられる条件をクリアするのが難しい分、唱えたときに得られるものは、唱え易い呪文に比べ強力になっている。

青トロンにとってマナ基盤の完成形は(ウルザランド3種)+(青1マナ)だと何度も繰り返し言ってきた。しかし、この前提を変えれば色拘束が厳しい代わりにより強力な呪文を採用することも全く無理な話ではない。実際、イニストラード:深紅の契りで収録された《船砕きの怪物》は、青ダブルシンボルでありながら、採用することで結果を残しているリストは多くある。

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↑後半では役に立たない《探検の地図》など、何でもないカードが凶器になる化け物

あくまで《船砕きの怪物》はフィニッシャーなので、ゲームの後半ならば青のダブルシンボルを支払うこともそこまで難しくないので、マナ基盤の前提を崩さなくても採用が可能な1枚だ。しかしそれと同時に、改めてマナ基盤の前提は、青トロンの強みでありながら、ボトルネックでもあることも分かる。このマナ基盤からくる序盤の色拘束問題が、改善されるような何らかの方法が発見されたなら、青トロンの選択肢は今までよりも飛躍的に広がり、より個性的なリストは増えていくだろう。それはきっと魅力的な未来だ。

これからの青トロンの展望をもって、この記事のまとめと替えさせていただきたい。

 

私の拙筆をここまで読んでくださった読者には感謝を申し上げたい。

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